WANIMA 『Fresh Cheese Delivery』2021.10.27 新宿ACB ライブレポート
『Cheddar Flavor Tour Final』を無事に走り抜いたWANIMAの3人。
コロナ禍でのライブの開催ということもあり、普段のツアーよりもたくさんのプレッシャーや疲労が蓄積されているのではと思うのだが。
さすがは止まることを知らない3人。
横浜アリーナで行われた2daysからなんと二日後。今回のツアーのSEで使用された楽曲『Brand New Day』を新たに収録した、3部作の集大成ともいえる『Fresh Cheese Delivery』を冠としたライブを、”完全招待制”という形で開催したのだ。
それも自らが育ったと語るライブハウスで!
10/26(火)にはF.A.D.YOKOHAMA、10/27(水)には新宿ACBと、それぞれキャパシティが150人程度の”ホームグラウンドで行われたこのライブのチケットは、WANIMAファンにとってまさに
”超激レア級”
〜誰かではなく自分に歌え〜がテーマの1部作『Chedder Flavor』
今この環境の中だからこそ届けたいという3人の想いがふんだんに詰まった2部作の『Chilly Chilli Sauce』
そしてコロナ疲れはもちろん、1日1日を生きる中で湧き上がる感情をストレートに込めた3部作『Chooped Gril Chicken』
この3部作のCDの帯にそれぞれ記載されたシリアルコードをWANIMAのオフィシャルサイトの特別サイトで入力することにより、完全無料招待ライブの抽選に参加することができるという企画だったのだが。
噂では、当選確率は100分の1以上。
奇跡を掴み取るような倍率であったと言われている。
筆者自身、開催されるライブハウスのキャパを知った瞬間“当たるはずがない!!” と思いつつ抽選に参加したため、仕事後にメールを開き「当選」の2文字を駅のホームで確認した時は、幻覚ではないかと何度もメールを見返した。
しばらく体の震えが止まらず、2,3本の電車をベンチに座って見送ったあの日。
だからこそ。
たいへん厚かましいことかもしれないが、今回自分がこのライブを観ることができたことにはなにか意味があり、どうにかこの日のライブの様子を伝えることができないかと辿り着いた答えが、下手くそな文でもライブレポートを書くことだった。
どうか、この文章を目にした方が、少しでも新宿ACBのライブの臨場感を感じてもらえますように。
―そんな願いを込めて―
ライブが始まる10分程前。
ステージに上がる前のKENTAの気合い入れとも、喉の調子を確認しているともとれる大発声が幾度となく新宿ACBのフロアに呼応する。
たくさんのファンに恵まれ、今では何千人規模のステージを埋め尽くすWANIMAのヴォーカルを担うKENTA。
そのKENTAのライブ前の発声確認など関係者でなければ、今では絶対に聞くことができないはずなのに…。
確かにステージ横の楽屋から聞こえる KENTAのリアルな声。
それは、手を伸ばせば届きそうな距離に、WANIMAが、KENTAが、KO-SHINが、FUJIがいることを鳥肌で直感できた瞬間。
その声がステージ袖から漏れるたび、時が止まったかのように多くのファンがその声を耳に焼き付ける。
開催の時間が近づくとともに大きくなるBGMとWANIMAを迎える拍手。
そして。18時05分。
待ちわびた瞬間が『Brand New Day』のサウンドととともに訪れる。
KENTAを先頭にFUJI、KO-SHINの順にWANIMAのメンバーが姿を現すと、その極限の近さに観客からはかすかな感嘆の声が漏れた。
まだ目の前の光景が信じられず目を見開き、マスク越しに口元を押さえるファンも多数。
しかしさすがはWANIMAファン。演奏が加速すると同時に早くもACBが揺れた。
決められたスペースの中で必死に腕を突き上げ、何度も天高くジャンプ。
マスクをつけながら飛び跳ね続けるエネルギーの消耗は、半端ないはず。
しかし、”迷いなら捨てて後腐れなしで”
一分一秒を噛み締めるごとく、みるみるフロアが沸き上がる。
そんなファン一人ひとりの顔をステージの台に登り見渡しながら、全力で声を届けるKENTAも、ステージの後ろから弾けるビートを送るFUJIも、リズムに乗せて首を振り、壮快にギターを掻き鳴らすKO-SHINも、満面の笑み。
ウォーミングアップなしで一気に抑揚する両者の想いに、一曲目とは思えないほどの熱気が新宿ACBに立ち込めた。
(出典:LINEBLOG WANIMA -オフィシャルブログ-)
天井をぶち破り、夜空に浮かぶ月に投げかけるようなKENTAの叫びから始まった『Call』
そして、怒り・嘆き・日々蓄積する負の感情が、KENTA、KO-SHIN、FUJI、3者のアグレッシブな節奏によりみなぎり、確固たる生命力に変わる『LIFE』が間髪入れずにACBに響き渡ると、その発揚は早くも絶頂に。
コロナ禍でなければ、120%ダイブやモッシュが繰り広げられていたに違いないと感じられる勢いで瞬く間に時が過ぎ、SEの『Brand New Day』を含めた4曲が終わる頃には、KENTAはシャワーを浴びかのように汗でグチャグチャだった。
ここでいつも通りKENTAが、
“どうも改めまして、東京都在住、熊本県出身、WANIMAです!”
とステージの台に乗りあいさつをすると、楽器隊の2人も満面の笑みでペコリとおじぎをする。
“いやー!!近いやろ、近いやろ、こんな間近でWANIMAのライブ見たことないやろ!?
とりあえず、一個言いたかことがあるけん、俺が目合わすと逸らすのやめてくれんかな!?”
と、次々にファンを指しながら嘆くと、フロアからも笑いが込み上げる。
“今日がライブハウス初めてって人手挙げてー!”というKENTAの質問には、半分近くの人が静かに手を上げ、その挙手の多さにFUJIとKO-SHINもフロアを見渡す。
少しびっくりしたかのようなKENTAが “多かけんねー。怖かったやろ。新宿歌舞伎町のど真ん中歩くだけでも、怖いやろうに。中に入ったら地下に続く長い階段があって…”
と問いかけると、コクリコクリとお客さんも深く頷く。
“でも意外に。来てみたらそんな怖いとこやないやろ? ただどう、こんな近くにスピーカーがあって爆音が流れてきて、本当にうるさいよなー!”
“しかもライブハウスはバンドマンの汗が染みこんだ独特な匂いもあるけん、みんな臭いやろー!”
と、ホームであるがゆえに、新宿ACBに愛砕けたトークを放っていく。
“でもな、俺ら長い下積み時代、ずっと歌舞伎町のど真ん中の、この新宿ACBで育ってきたんよ、こんな怖か場所にあるけど、この新宿ACBっていうライブハウスは。俺らにとってはホームみたいな場所やけん“
“ちょっと外歩くのは怖いかもしれんけど、この限られた空間に、この空間に一緒におれる間は、俺も、FUJI君もKO-SHINも皆のこと全力で守ってやれるけん!!”
“だから今日この空間にいる間だけはせめて、嫌なことも辛いことも忘れて、楽しんで、リラックスして帰って下さい、お願いします!”
このWANIMAのホームでこそ聴ける、KENTAの特別なMCに思わず胸が疼いた。
ここで演奏は、『枯れない薔薇』へ。
今回の3部作の中で唯一、妖艶めいたシーンを脳裏に浮かばせるこの曲では、さまざまな女性の名前を呼ぶパートで、KENTAがいたずらめいた笑みを繰り出し、フロアを盛り上げる。
(出典:LINEBLOG WANIMA -オフィシャルブログ-)
すると続き演奏されたのは、学生時代の自分に、数年後の今を生きる自分が伝えたいことを目一杯込めたような歌詞が魅力の『SHADES』
“選べない生まれた環境 足りないから分けた幸を”
“どこにいたって 離れても近くにいるから”
そんな嘆きを希望に変える歌詞を、懸命に歌舞伎町の夜空にKENTAが喚くと、KO-SHINもギターを包むかのように背中を丸め、首を激しく縦に振りながら、湧き上がる思いを音として吐き出す。
力強いその姿が、胸に焼き付いた。
(出典:wanima_wanima WANIMA OFFICIAL Instagram)
ここでFUJIの歯切れの良いシンバル音から、一部作の表題曲である『Chedder Flaver』がスタートすると、再びライブハウスに振動が走る。
楽しそうにギターを掻き鳴らすKO-SHIN、額に汗を光らせながら見事なスティック裁きで、次々と音波をスパークさせるFUJIのドラムに、ノリノリになったフロアのファンが手を叩き、軽快なジャンピングを見せていた。
そしてこの『Chedder Flaver』のサウンドが鳴り止むと、なにやらステージ上で、両手を広げ、体を横にスライドし、変なダンスをKO-SHINに向かって披露するKENTA。
(出典:wanima_wanima WANIMA OFFICIAL Instagram)
そして目を疑ったのだが…。
ステージには間違いなくKENTAのダンスを鏡に映すかのように真似し踊るKO-SHINの姿が!
真剣にライブレポートを描きたいという想いがあるからこそ、この表現はしたくなかったけれど。KO-SHINの ”え!?” の光景を目にした瞬間を一言で表現するならば、まさに(笑)であり、今時の言葉でいえば草なのかもしれない(笑)
そんなKO-SHINの姿を観て、KENTAがいじり倒す。
“えーやん、えーやん、リハーサルの時は絶対やらんかったけんね!(KO-SHINの真似をしながら)「俺は、ロックンローラーやけん、ダンス踊るくらいなら、自衛隊戻るけん”
って言っとったとよー!”
“そんなKO-SHINですが。本番では絶好調です!” と語る。
“普段は目も合わさんし、こんなに笑いもせんけん。めずらしかよ!こんなKO-SHINが見られるのも、みんなのおかげです、ありがとう!”
このKENTAのトークに、照れながらも笑顔で手をゴシゴシするKO-SHINの仕草がとても愛苦しかった。
時に少年に戻りイタズラな笑みを浮かべながら、 KO-SHINやファンをイジるトークも。時に、湧き上がる想いを飾らずストレートに伝えてることで、私たちの堅く閉ざした心を力強く開放してくれるKENTAの言葉も。
そのKENTAの横で、とてつもなく優しい音色を流し、さりげなくMCをサポートするKO-SHINのギターも含め。
決してその場にいる人たちを置いてきぼりにせず、その場所にいる全員の表情を笑顔に導くWANIMAのMCもライブの魅力のひとつだ。
ここで “まだ春はちょっと遠いけん、次は『春を待って』っていう曲を歌います。
この曲はコロナが蔓延しだしてリリースを少し早めてもらった曲で。聴いてください”というKENTAのメッセージから、演奏に移っていく。
コロナが流行し始めてからまもなく、昨年の3月に緊急リリースとしてサブスクで発表されたこの曲は、WANIMAからの”大丈夫やけん”というメッセージが込められていたように思う。
筆者自身も、先が見えない不安のトンネルの突破口が見つけたくて何度もこの曲で耳を塞いでいた時期がある。
実際この日、マスク越しのサイレントヴォイスで、KENTAの歌詞に声にならない声を重ねながら一緒に歌っていたファンも多かった。
(出典:LINEBLOG WANIMA -オフィシャルブログ-)
ここでまた空気は一変。
軽快なテンポの演奏と反比例して、人間の醜態を露わにした歌詞が突き刺さる『Faker』、KO-SHINのエッジの効いたカッティングとFUJIのエネルギッシュな掛け声が交わり、スタートした『となりに』がフロアに流れ込む。
冒頭のKENTAの”となりにおってくれよ!!”のストレートなメッセージを皮切りに、FUJIとKO-SHINが片時も揺るがないサウンドをフロアにたぎらせた『となりに』は、WANIMAの、一曲一曲に込める想いの強さを率直に受け取れる曲の真骨頂ともとれる。
その猛烈な勢いで加速し続ける演奏を、フロアのファンも全身で受け取り、ステージに真剣な眼差しを送っていた。
ここで早くも一部作『Chedder Flaver』の最後を飾ったのは、KENTAが自分の少年時代に感じた切なさを軽快なリズムに変換し、送り出す『Milk』
FUJIのアップテンポのドラムに乗せて、お客さんもかかとを上下させたり、小刻みに身体を横に揺らしたりと、各々各々の体感で『Milk』のサウンドに身を委ねていた。
そしてしばらくKENTAのKO-SHINいじりが続き、二部作目である『Chilly Chili Sauce』で幕を開けたライブ中盤戦。
FUJIの歯切れ良いバスドラムの音にフロアの鼓動が重なり、みるみるうちにACB全体に再び熱気が立ち昇る。
“次の曲はそれぞれみんなが家族、彼氏彼女、大切な誰かを浮かべて聴いてくれたらと思います”
“もし今頭の中に大切な人がパッと浮かばなくても大丈夫。WANIMAがおるやん、KENTAも、FUJI君も、KO-SHINもおるやん。
直接なにかができるワケやないかもしれんけど、WANIMAをみんなが必要としてくれる限り、俺らはずっとみんなのそばにおるけん”
(出典:LINEBLOG WANIMA -オフィシャルブログ-)
そんな直球のメッセージがKENTAから発された後に演奏された『最後になるなら』では、言葉の節々までを噛み締めたファンが、真剣な面持ちでステージを見つめていた。
続いてモノローグや純粋な想いが言葉に溢れでたかのような『月の傍らで』を、ゆっくりとKENTAがフロアに届けると、『ネガウコト』ではKO-SHINが優しく伸びゆくサスティーンの音色をフロアに反響させ、彼の根底にある、強さゆえの優しさが、音となり溢れ、温かく降り注ぐ。
普段からあまり多くを語らず、ギターに込める音や全力のハモリで、私たちの心を鷲掴みにするKO-SHIN。
この日はそんなKO-SHINの弦をたどる器用な指先までもが、しっかりと裸眼で感じとれたこともあり、その一つひとつの繊細な音色が、よりゆっくりと全身に浸透していく感覚に陥った。
あっという間に過ぎゆく特別な時間。
3部目の『Chopped Glil Chicken』の演奏に入る前、“ここからはあっというまに過ぎちゃうけん、もうちょっとだけ話させて”KENTAがそう口を開く。
“これから歌う『Chopped Glil Chicken』の曲のなかには、怒りや悔しさや葛藤をストレートに表現した曲があります”
“夜にいろんなことを考えても、前向きになれることなんてほとんどないって分かっているのに、こんな世の中になって、夜になると毎晩のようにいろんな怒りや、悔しさや負の感情が込み上げてきて”
“そんな気持ちの中で月をみながらネガティブな感情を爆発させた曲が表題曲の『Chopped Glil Chicken』だったり、『Get Out』だったりします”
“みんなも毎日生きてると、しんどいなぁって感じたり、耐えれんくらいの辛い気持ち、怒り、そんな感情が湧き上がることがあると思うけど”
“でもそんな時にこの曲を聴いてもらえたらなって”
“『Chopped Glil Chicken』の歌詞なんかは、あんまり大声で叫べないような言葉も多いけど、でも嫌なことがあった時や、怒りでどうしようもない時は、片足で立って、こうやって横に手を広げて(ケンケンで地面と並行に手を伸ばすポーズ)30秒間この曲の歌詞を唱えれば、ちょっとは楽になれるんじゃないかって思います”
そう笑いながら話を進める。
重くなりすぎないように、笑いが交えられたMC。
(出典:LINEBLOG WANIMA -オフィシャルブログ-)
しかし今回のアルバムの中で”月”や”闇”のワードが多くの歌詞に書かれていることに気づいた時。
このコロナ禍の世界でKENTA、FUJI、KO-SHINは、私たちが想像できないような葛藤や決断、傷みをたくさん強いられたように思う。
このご時世でのライブの開催、音源のリリース、そしてどんな言葉を発すれば、真っ直ぐに、1人でも多くの人の手を握ってあげることができるのか、そしてKENTAに至っては、自分の発した言葉が勘違いされることなく、素直に届くのか。
深い闇の中で届いてほしいと願い、祈り、止まらず突き進んでくれたWANIMA。
『旅立ちの前に』を含め、去年からフル加速で届けてくれた約19曲の音源、決行を選択し駆け抜けてくれたライブ、そしてインスタライブなどのステイホームでも楽しめる企画の数々。
そんな全速力のWANIMAに、一筋の光を抱き生きる人が、たくさんいた。
何らかの発表とともにファンから多数湧き上がるSNSでの歓喜と”ありがとう”の言葉。そして声が出せずとも、待ち侘びていたWANIMAの音楽を生で感じられる空間に弾け飛ぶ笑顔。
彼らがいてくれてこそ生き抜けた時代。
そんなWANIMAの3人には”駆け抜けてくれてありがとう、支えてくれてありがとう”ただただその言葉しか浮かばない。
(出典:LINEBLOG WANIMA -オフィシャルブログ-)
そしてMCの終わり、”KO-SHINもなんか一言”とKENTAがKO-SHINに終盤戦のスタートを告げる意気込みを託すとKO-SHINが笑顔でマイクスタンドに向かう。
そのKO-SHINが気合を入れて叫んだ一声。
“WANIMA 中盤戦!!〜”
これにはKENTAもFUJIも会場も無言のツッコミが止まらない。
すかさず吹き出したKENTAが“いやいやKO-SHIN、終盤戦やから!” と突っ込むと、頭を掻き本当に照れくさそうな表情でKO-SHINも苦笑い。
フロアにはほんわかムードが漂っていた。
(出典:wanima_wanima WANIMA OFFICIAL Instagram)
ここでさっと曲の世界に入り、マイクを握るKENTAには圧巻。
終盤戦を告げる『Chopped Glil Chicken』がフロアに轟くと目を見開きながら、感情剥き出しで歌詞を吐き出していく。
こんな攻撃的な言葉を発して大丈夫なのか?そんなこちら側の疑問すら愚問だと言わんばかりに迷いなく、KENTAは歌う。
今この世界で生きる中で感じる、苛立ちを。KENTAが全て吸収し、吐き捨ててくれている気がして。日々溜まった鬱憤が瞬く間に消化されていった。
続く『離れていても』では”出会えたことがなによりも財産”と力強く語りかけるKENTAの歌声を、KO-SHINがフレクシブルな音色でより鮮明に彩らせていく。
そして怒りを表すかのように光り巡る赤色のライトがフロアを映し出し始まった『Get out』
地面から突き上げられるようなFUJIのビート、ベースの重低音とともに、飛び散る破天荒なKENTAのタブーフレーズ。その演奏に突き動かされたかのように、フロアからもたくさんの拳が振り上げられていた。
(出典:wanima_wanima WANIMA OFFICIAL Instagram)
そして今回の『Fresh Cheese Delivery』の本編ラストが『いつかきっと』で飾られる。
煌びやかに天井を駆け回る三色のライトの下、フロアのファンの熱った顔に浮かぶ笑顔。
”みんな歌えるかー? 帆をー張ったやぞ!”というKENTAの掛け声とともに、マスク越しでも分かるほど輝く表情、声にならない声でKENTAとともに、歌詞をなぞる姿に、ライブハウスに感じていた緊張や、不安は拭い去られていた。
そして無事に本編を終えて、笑顔でステージを捌けていく3人。
(出典:LINEBLOG WANIMA -オフィシャルブログ-)
―瞬く間にすぎる色濃くかけがえのない時間―
“もうちょっと、もうちょっとそばでWANIMAを感じていたい”という想いが炸裂し、3人がステージから捌けるやいなや、アンコールを願う全力の拍手がフロアから湧き起こる。
すると『Chedder Flaver Tour Final』横浜アリーナ2daysに足を運んだ方は、そのシーンが浮かぶと思うが、”皆の拍手をアンコールと勘違いして、ステージに戻ってきたWANIMAですー”のおちゃらけたKENTAのMCで、WANIMAの3人が再びステージに姿を見せた。
”たくさんの拍手ありがとう! そんなに手叩いて皆んな手、真っ赤やろ!ちょっと見せて“とKENTAがいうと、ステージにたくさんの手が向けられる。
“真っ赤やん!!ってか、なんかこの光景すごいな!ちょっとそのまま手振ってみて!ヘイ、ヘイ“と言いながらKENTA自身も手を振り、フロアに上がった手を誘導すると、それを見て爆笑する3人。
(出典:LINEBLOG WANIMA -オフィシャルブログ-)
さらにMCは続く。
この日はこんなにWANIMAの歴史を語ってくれたことがあっただろうかと驚くほどに、新宿ACBで築いてきた思い出を、KENTAが話してくれたのだ。
KO-SHINが乗ってはいけないモニターステレオに乗って足の裏に釘がささり、出血をし、ライブ後近くの病院に真っ先に向かったこと。
また、KO-SHINは戦争映画をよく見るらしく、映画のワンシーンのように錆びた釘にささると破傷風になるかもしれないと不安になり、”釘錆びとらんかったよね?、死なんよね?”とKENTAとFUJIに確認したという今だから笑えるエピソード。
ここで、FUJIもMCに加入したことで、さらに笑い耐えない会話が連発される。
病院に寄り添ったFUJIが聞いたという、処置室での”あの痛いですか?縫いますか?”と質問を連発するKO-SHINの姿。
しかし、実際縫ったのは3ミリ、KENTAによれば、1.5ミリくらいの軽症であったという事実。
また、2012年か、2013年のどちらかで、新宿ACBで年間最多出場記録を打ち出したというWANIMA。しかし期待した賞品が、うまい棒だったことに唖然とし、言葉が出なかったこと。
ACB初のライブのドラムはFUJIではなかったが、そんなFUJIのWANIMAデビューはACBだったこと。
誘われたバンドの誘いに乗り、ツーマンを行ったら、お客さんが3人しかいないフロアの景色をここで味わったこと。
そして新宿ACBには怖い三代巨頭がいて、毎回ライブの感想を聞いては、笑顔ではいられなかったこと。
その三代巨頭である林さんだけが、今日この場でWANIMAを見守ってくれているということ。
まだ駆け出しの頃にその林さんをステージでイジり、ライブ後に、”俺に噛みつくな”と怒られたこと。
かつて新宿ACBで行われていた年越しイベントである『半端ねえナイト』に参加ができなくて悔しい思いをしたKENTAと KO-SHINは、地上に上がるために必須なACBの長い階段を、”絶対あいつら超えて、有名になってやる”と2人でフードを被りつぶやきながら登った歴史があるということなどなど。
まだWANIMAというバンドが世にほとんど知られていなかった時代に新宿ACBで刻んだ思い出を洗いざらい語ってくれた。
最後は新宿ACBの床を話題に。
フロアの床が木目のフローリングであるライブハウスは珍しいと語るKENTA。
最初はこのフローリングには木目なんかなくて、バンドマンの涙と悔しさからくる傷の証が木目として刻まれていったという、ユーモア抜群のトークでMCを締めくくる。
そして。”そんなころから俺らがここで歌ってた曲を今日はここ新宿ACBで歌うけん!”と伝えアンコール一発目でWANIMAが轟かした音は、『ONCE AGAIN』!!!
過去に収録された音源はあるようだが、リメイクされた『ONCE AGAIN』の音源は現在世に発表されていない。
『Chedder Flaver Tour』でも 何度か披露されたこの曲は、今の時点ではライブでしか聞けないこともあり、WANIMAを好きになった時期問わず、この曲のイントロが流れるやいなや、どの会場でも飛び上がるファンが続出した。
(出典:LINEBLOG WANIMA -オフィシャルブログ-)
辛い下積み時代から演奏してきたという『ONCE AGAIN』を、ホームである新宿ACBで聴けることは、ただただヤバいとしか、表現できない。
実際に”えっ、ACBでONCE AGAIN!?”などこの日のセトリを目にした多くのファンからTwitterでも反響があった。
“ここから羽ばたいた今の俺らを見てみろ”とばかりに数年ぶりに新宿ACBに轟く、『ONCE AGAIN』
暗い闇の底に垂らされた一本の糸にしがみつくかのようにもがき、なんとか感情を殺さず前を向こうとする姿が痛いほどに刺さる言葉。そして当時の二倍にも三倍にも音が重なった『ONCE AGAIN』は、勢力を増した台風のようにエグく強い。
ギュッと目をつぶり全身から絞り出されるKO-SHINの激しく不可思議なリフも、リバウンドするビートさえ跳ね返す激しさで、耳をつんざくFUJIのビートも、いろんな感情が混在するKENTAの『ONCE AGAIN』の生声も、ファンを含めて人差し指を掲げながら唱えられる、”ライライラライ ライ ライ ラライ”のハモリも全部、一曲丸ごと脳内に反射し続ける破壊力。
新宿ACBに神が宿るとしたら「今」を駆け巡るこの『ONCE AGAIN』の演奏をどんな気持ちで見つめていただろうか。
続き、 “明日が、来―れーば!”のKENTAの煽りから始まったアンコール2曲目は、初期アルバム『Can Not Behaved!!』に収録されている、ライブ代表曲『昨日の歌』
畳み掛けるように流れ出すイントロに乗せ、その場でダッシュのジェスチャーを繰り広げるファンの姿もちらほら。そんなファンの姿を目撃してKENTAが嬉しそうに吹きだしている姿が印象的だった。
(出典:wanima_wanima WANIMA OFFICIAL Instagram)
『昨日の歌』が終わると再びKENTAがマイクを握る。
“いやー、笑った。昔ライブで『昨日の歌』をやっとた時は、よくステージにお客さんを上げたりして皆んなで、スカダンスみたいに、手をふりながらこうやって走っとたのよ”とジェスチャーを加えながら説明する。
“今日もステージから見てたら、昔からWANIMAのライブを見にきてくれてる方なのか、何人かがその場でスカダンスしてる姿が見れて、吹き出しちゃったけん!“
“だってよく考えたらさ、”冴えない顔で通勤ラッシュ〜”って歌ってただでさえ仕事に行きたくないのにスカダンスなんてしんよな〜!あの頃のWANIMAは一体どんな気持ちでこの曲を演奏しとったんやろ”というKENTAの自虐的な発言にはフロアのファンも手でマスクを抑える。
“おい、笑うな、笑うな!あの時はあの時で必死だったんやけん!というツッコミにさらに笑いが込み上げていた。
ここで、もうひとつ。KENTAから衝撃な過去が暴露される。
“そういえば。今は全く喋らないKO-SHINさんですが、当時はKO-SHINがMCを担当しておりました!”
この事実にはファンもびっくり!
“ここでよくライブやっとった当時は、KO-SHINが物販紹介担当だったけん、なーKO-SHIN!”
と話題を振るとコクリとKO-SHINが頷く。
“いつも嫌そうにボソボソ喋りよってなー(笑)あの頃は無理させとったな、って思っとるけん。だから、KO-SHINには、今は好き勝手にライブでギターを弾いててくれればいいと思ってます!”
と顔を見ながら伝えると、KO-SHINも嬉しそうに微笑み、何度も首を縦にふっていた。
(出典:LINEBLOG WANIMA -オフィシャルブログ-)
ここでライブはいよいよ本当の終盤戦に。
KO-SHINの”ロックンロール!!!!!”の雄叫びから始まったのは『THANX』
この150人ほどの限られた人数のみ収容可能な新宿ACBという空間で、等身大のKENTA、KO-SHIN、FUJIが確認できる場所からその場にいる全員に送られた『THANX』はとにかく直球。
KENTAの歌詞通り。
この日、限られた空間で、音が流れるている瞬間だけは。
確実に、”主役はお前” であり、1人ひとりに届けられる”ありがとう”の言葉。
そんな『THANX』を受けとったファンのリミッターが、次々と外れていく。
ただただ、この場でこの曲を聞けたことに、タオルで涙を拭い背中を震わせる人、熱く込めた拳でWANIMAに感謝を届ける人、ステージの等身大のWANIMAとともに、声が溢れるギリギリのラインで、心から湧き上がる歌詞をKENTAの声に載せ、サイレントヴォイスで熱唱する人。
その姿はさまざまだったが。
確実に。KENTA、KO-SHIN、FUJI、このフロアにいる人々皆が主役として、描いたままのTHANXをステージに送っていた。
そしてスペシャルサプライズで送られたトリの曲は『Hey! Lady』
馴染み深いFUJIのハイハットの四つ打ちが潔く投打されると、ステージ台に登り先陣を切るかのようにKENTAが冒頭のワンフレーズを声高らかに叫ぶ。
そこからはもうカオス状態。エネルギッシュなKENTAのベースの重低音に引っ張られるかのように果敢にフロアも最後の力を振り絞り、拳を掲げる。
(出典:wanima_wanima WANIMA OFFICIAL Instagram)
こうして『Fresh Cheese Delively』は幕を閉じたのだった。
自分達の音楽を求める一人でも多くの人に寄り添い歌を届けたいと日々願う彼ら。
彼らの音楽を求めるファンが、次第に増えたこともあり近年では、アリーナや大型ライブハウスでライブをすることも多い。
また”お客さんを楽しませたい!” という強い想いから、大規模な会場ではワーっと感嘆の声が漏れる照明や、距離を感じさせないクリアなサウンド、モニター演出などを駆使して、その日のライブを色濃い特別な日にしてくれる。
しかし新宿ACBには彼らのライブを華麗に彩る性能のいいスピーカーがあるわけでも、立ち尽くして見入ってしまうほどの照明演出ができる設備が整っていたわけでもない。
ただ。新宿ACBだからこそ、モニターやスピーカーを介さず感じ取れた奇跡ともいえるWANIMAとの時間。
飾り気もなにもない、ただただありのままのKENTA、KO-SHIN、FUJIの生の表情、叫び、サウンド、熱量。
ここでは装飾なんていらない、その飾り気がないからこそ感じられた彼らの温もりが、その場にいた全ての人から消えることはないだろう。
新宿ACBの長い階段を登り、ライブハウスから出ようとした時、” この空間に一緒におる間は、皆のこと全力で守ってやれるけん!!”というKENTAのライブ中のMCが胸の奥で呼応し、どうにも一歩が踏み出せなかった。
ここから一歩進んだら夢から覚めてしまうような”寂しさ“、待ち構える”現実の世界”
歌舞伎町に流れる独特の冷たい夜風に、余計に恐怖心が掻き立てられる。
しかし、わたしが彼らを知る前から、細々と、それでも根強い光でWANIMAを見守ってきたACBの看板を見上げると、力強く一歩が踏み出せた。
ここで育ち、ここから一歩を踏み出したWANIMAがいてくれたからこそ、彼らの音楽に出会うことができ、今では生活の一部と化した彼らの曲に私は救われているのだと。
KENTAは“もう二度とここには帰ってこない”と言っていたが…。
思い出がいっぱい詰まった彼らのホームであるこの新宿ACBで、またいつかWANIMAが見られますように。
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